大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)26号 判決

原告 大阪麻糸株式会社

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「特許庁が、同庁昭和二十七年抗告審判第一四〇号事件につき、昭和二十八年七月十四日になした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は「富士」と「旭」との組合せ図形を描き、之に特に「旭富士印」の文字を明記した商標につき、第二十九類麻糸を指定商品として、昭和二十六年六月十六日特許庁に対し、商標登録出願をしたところ、昭和二十七年一月二十四日拒絶査定を受けたので、同年二月二十二日特許庁に対し抗告審判の請求をし、同事件は昭和二十七年抗告審判第一四〇号事件として審理された上、昭和二十八年七月十四日右抗告審判の請求は成り立たない旨の審決がなされ、その審決書謄本は同月二十七日原告に送達された。

而して右審決の理由の要旨は、原告の右商標を第二十九類糸類を指定商品とし、四隅を富士山形とした特殊輪廓中に「富士」及び「美光糸」と二段に書して成る既存の他人の登録商標第二七八〇〇三号と比較した上、両者は外観上相類似しているとすることはできないが、称呼及び観念上から見れば、前者は「旭富士印」の文字を存するが、その図形全体を一見すれば世人の間に親しみ深く且その認識顕著なる富士山に存するものと言うべく、従つて、「旭富士印」の称呼観念の外に「富士山」の略称なる「富士」と称呼観念されて取引されることが自然であり、後者と共に「フジ」の称呼観念を生ずるから両者は互に類似したものと言うべきであると言うにある。

二、然しながら登録第二七八〇〇三号商標の称呼観念が単なる「富士」印であるとの審決の認定の当否(右商標の称呼観念は「富士美光」糸であると解すべきである)はしばらく措き、本件商標が単なる「富士」印であるとの審決の認定は誤つている。蓋し本件商標は審決も認めた通り、ほとんど等分の比を以て描いた富士山の図形と、旭の図形とを一つに結合し、之に特に「旭富士印」と言う文字を明記したものであつて、図形と命題文字とが一致一貫して「旭富士印」であることを明示している。特に本件商標に於ける「旭富士印」なる命題文字は例えば軍服を着た乃木大将の絵に乃木大将と記銘し、又は児島大審院長の肖像に「児島院長」と記銘した場合のように、その商標の称呼観念を特定し不動のものたらしめるだけの支配力を有しているのである。このような文字と図形とが一致一貫して「「旭富士印」であることを明確に表示している商標が単なる「富士印」の称呼観念をも生ずるとすることは甚だしい誤であり、本件商標と登録第二七八〇〇三号商標とは相類似しているものではない。

三、よつて原告は審決の取消を求める為本訴に及んだ、

と述べた(立証省略)。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中一、の事実は認める。

審決の判断が原告主張のように誤つていることは否認する。即ち本件商標は矩形輪廓内に山頂を白雪で覆い、左側中腹と左側裾部に雲形をあらわした富士山の中央下部に楷書体のペン字で「旭富士印」の漢字を左横書にし、富士山の右側中腹の背後に細線の放射線を有する旭の図形を画いて成るものである。之に対し登録第二七八〇〇三号商標は四隅に富士山の山頂をあらはし、その裾の線を連続させて一個の糸巻状の輪廓とし、之を二等分する区劃線を横に引き、その線の上部に「富士」「美光糸」の文字を二段に右横書し、更に線の下部には「白票」の文字を右横書して成るものである。両者の構成は右の通りであるから外観上は互に類似しているものではないが、称呼、観念に於て前者が「旭富士印」の文字を存しても、全体を一見した場合に最も世人に親しまれ且、印象深い富士山の図形に注意が惹かれ、その中腹部にあらわされた旭の図形は富士山を表現する背景として看過され勝であり、従つて本件商標からは単に「富士」又は「富士山」とも称呼観念されるに対し、後者の商標中に「美光糸」「白票」の文字が存するけれども、之は商品の品位と品質とを表示したものであるから商品の標識とするに足らず、結局後者は四隅に「富士山」の図形を有し、その中に「富士」の文字を記載したものをその要部として成るものと言うべきであるから、両者はその称呼観念が共に「富士」又は「富士山」であつて、相類似しているものである。然らば審決には原告主張のような誤がなく、原告の本訴請求は失当である、と述べた(立証省略)。

三、理  由

原告の請求原因事実中一、の事実は被告の認めるところである。

成立に争のない甲第四号証によれば原告の本件商標は矩形輪廓内に山頂に白雪のある富士山の図形を描き、その左中腹及び右裾部に雲と思われる図形と右肩背部に旭の図形をあらわし、更に中央部下方輪廓に沿うて「旭富士印」の文字を左横書に書いたものであることが、又成立に争のない甲第三号証によれば登録第二七八〇〇三号商標は四隅が富士山の山頂の形をした糸巻状の輪廓を描き、その中央に横の区劃線を施し、上半に「富士」及び「美光糸」の文字を、「美光糸」の方を「富士」よりも大きく、二段に右横書し、下半に「白票」の文字を右「富士」の文字と略々同じ大きさで右横書したものから成り、第二十九類「第二十六類乃至第二十八類に属せざる糸但し毛の混紡糸を除く」を指定商品としたものであることが、夫々認められる。

よつて右両商標が称呼及び観念上互に類似しているか否かにつき審案するに、本件商標の右認定の構成に於て雲は富士山の単なる附飾的の図形に過ぎないものと解せられるから、結局右商標は旭と富士山との結合を要部としていることが認められ、而も「旭富士印」の文字が記載されてあるに徴すれば右商標からは旭富士印の称呼及び観念が生ずることは明らかであるけれども、右旭と富士山とは取引上分離して観察することが不自然と思われる程不可分的に結合しているものとは認め難く、而して右商標を一見すれば富士山の図が他の部分に比し著しく見る者の注意を惹く程度に顕著にあらわされてあることが認められ、この事実に鑑みるときは右商標からは「旭富士印」の称呼観念の外に単に「富士」又は「富士山」の称呼観念も生ずるものと認めるのが相当である。之に対し登録第二七八〇〇三号商標はその糸巻状の輪廓の四隅が一見して富士山の図形をなしていることが看取せられ、而も富士の文字があらわされてあることに徴すれば、この商標からは富士又は富士山の称呼観念が生ずるものと解すべきであり、そのことは右商標中に前記「美光糸」及び「白票」の文字の存することによつて左右されるものではない。

而して文字又は図形の結合により成る商標については商品の取引者及び需要者により必ずしも称呼及び観念の同一であることを期し得ないことがあり得べく、もし二様の称呼及び観念が生じた場合、一の称呼及び観念が他人の商標の称呼及び観念と同一又は類似であると言うことを得なくても、他の称呼及び観念が他人の商標のそれと類似であることもあるべく、この場合には尚両商標は相類似するものとしなければならないこと勿論である。

然らば本件商標から「旭富士印」の称呼観念の外に「富士」又は「富士山」の称呼及び観念を生じ、又登録第二七八〇〇三号商標の称呼観念が「富士」又は「富士山」であること前記の通りである以上、両商標はその称呼観念を同じくするものであり、従つて相類似しているものと言わなければならない。而して本件商標の指定商品は第二十九類麻糸であり、登録第二七八〇〇三号商標の指定商品が第二十九類「第二十六類乃至第二十八類に属せざる糸但し毛の混紡糸を除く」であつて、両者は同一類別内のものとして類似の商品であることが明らかであるから、すでに本件商標の登録出願前に右第二七八〇〇三号商標の登録が存した以上本件商標は商標法第二条第一項第九号に該当し、その登録は許されないものと言うべきである。

然らば本件商標登録出願を排斥した審決は相当であつて、その取消を求める本訴請求は失当であるから、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

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